小雪のハンガリー音楽留学レポート【第17回】

2025.5.16

第17回 音楽院 授業内容④
今回は、必修科目である実技系の授業の「即興」の紹介です。どのような内容をもって授業となっているのか、一からのスタートでも可能なのか、先生のアプローチの仕方についてなど、実際の授業の様子も踏まえて、レポートしていこうと思います。

—即興
皆さんは即興と聞いて、どのように想像されますか。今では、多くの人が馴染みあるカフェや本屋、雑貨屋などのBGMとしての、日常生活に身近な存在となって聞くジャズを筆頭に、多くの音楽ジャンルに欠かせないものです。そもそも、音楽家に必要不可欠な楽譜を例に話すと、音楽の基礎として語り継がれるバッハやモーツァルトなどの多くの作曲家も、実際に楽譜に書き起こしてはないけれど、即興による作品が数多くあります。時代を経て技法は色々と進化しつつありますが、基礎の軸は不朽不滅です。いわゆる基礎メソッドから学び始め、より理解を深め慣れていこうというのが、ここリスト音楽院の即興の授業だと思います。

内容としては、一つにさまざまな時代からの作品の1ページ分にフォーカスして、どのように調性の変化が起きているのかを考察し、リズムに少しアレンジを加えて行く方法です。たった数小節の中でも、調性という枠の中での自分なりのアレンジは、意外にもたくさんの方法があって大変です。何せその場での対応が求められ、グループ授業なので他の人と多少でも違いを披露しようと必死になります。次にリズムだけでなく、メロディや拍子までも変化させ、よりジャズらしさに近づかせていくものです。元の作品の面影がどこかあるようだけど、ここで変化を見せているんだなと分かるほどで、初回の授業からは信じられないほどの成長を後期学期で感じさせます。

授業テーマとしては、何を学び、それをどう実技に応用していくのかだと思います。至ってシンプルな考えかもしれませんが、作品を読み込み理解していき、より丁寧に仕上げていく上で、音楽を分解するのに非常に役立ちます。ここはどういう音楽の進行になっているのか、それぞれ混じり合い複雑になっているメロディの調性はどうなのかといった、さまざまな方法でのアプローチの可能性が広がります。音やリズムをひたすらに読む作業的なアプローチではなく、全体の音楽構成を把握し、後からリズムや拍の速さを付け足す感性的アプローチがとても基礎的な内容であったとしても、この即興の授業から得られた知識だと思います。

—近況報告
海外へ来た後の不安要素として、食の適応、治安、身の回りのケア、これら3つは否が応でも抱えるものです。特に、日本人として日本の生活水準を基準にしていると、改めて日本の良さを感じるでしょう。この一つである身の回りのケアの一貫として、先月、初めてここハンガリーで美容院へ行って来ました。とは言っても、在住されている日本人の方が経営されている場所でしたので、もちろん安心でした。担当して下さった方は気さくに話しかけてくれて、また、ちょうど独立記念日で人々が国旗を片手に歩いていて、色々な気持ちが通じ合ったようでした。他にここの美容院にチャレンジしてみた学生がいたようですが、想像していたように注文通りでなく、ただざっくり切られた感じだったそうです。もし、少し違うテイストを試してみたいと思って海外の美容院を利用される際は、よくレビューなどの下調べをし、覚悟を持って行かれてみてください。ちなみに、前回は自前の譲り受けた散髪用ハサミで、約15センチ切りました。酷かったです。

話は変わり、先月4月末に、現代音楽の授業の一貫として、郊外のショプロンで演奏をしてきました。ここは、ブダペストから電車で約3時間の距離で、隣国オーストリアとの国境付近に位置している街です。

【写真①、②、③  ショプロンの街の中心地、整理整頓された綺麗な街並みが特徴】

歴史的にも長年、各国の領土問題において国境が幾度となく変化し、その影響で多くの場所では攻撃の的となり破壊されてしまいましたが、ここショプロンは比較的難を逃れ、現在もなお、そのままの姿形を残し由緒ある街として有名です。気候も街並みも心地良く、多くの作曲家たちの休暇の場所として選ばれ、リストやハイドンなども訪れたそうです。私が行った時にたまたま日本人の団体観光客の方たちもいて、各国で有名な場所であることを認識しました。リスト音楽院とショプロン大学のコラボレーション企画として、数年前から演奏会を開催していて、自然と現代音楽の融合がとても神秘的でした。コンサート会場へ着くととても綺麗な景色で電車での長旅の疲れを癒し、心に束の間の余裕を与えてくれるようでした。

【写真④、⑤ ショプロン大学の敷地内にあるコンサート会場、窓壁で木々から漏れ差し込む日差しが綺麗】

演奏者として参加した計8人のリスト音楽院生が、それぞれ取り組んだ現代曲と持ち曲を披露しました。全員の人と同じグループで授業を受けていたわけではないので、新たに現代曲を発見する機会にもなりました。また、開催者のショプロン大学が併設する寮の一室を提供して下さり、一泊して次の日の街の案内ガイドまで付けてもらえたりと、とても充実したひと時の小旅行となりました。

【写真⑥、⑦、⑧  街の中心地の様子】

【⑨市庁舎で、度重なる戦争から街を維持しようと、各国から大学をショプロンへ移したことで、現在も教育の街として有名になった。その先駆者が、市庁舎前に銅像となり功績を讃えられている】

さて次回も、引き続き音楽院の授業内容についてです。この回から、新たに座学系と区分した授業の紹介になります。まず始めに、「音楽史」についての授業内容や、その内容のテーマの前期学期と後期学期の違いについてなど、実際の様子なども含めてレポートとしていこうと思います。