2025,2,14
第14回 音楽院 授業内容①
今回から数回にわたって、リスト音楽院の授業の内容について、詳しくご紹介しようと思います。昨年とは少し変わり、現在は学部に属しての留学生活となりました。各授業の課題に取り組みつつ、成果へと繋げ、どれだけ自分でこなしていくかが重要です。それぞれの授業について、私自身の体験も踏まえながら、レポートでお伝えしようと思います。また今回から、新たなコーナーを設ける形で、最近の出来事を綴る近況報告も書いていこうと思います。
—必修と選択
どの大学でも欠かせないのが、必修と選択の授業です。リスト音楽院の大学院(MA)1年課程には、実技にフォーカスした6つの必修と、座学やコミュニケーションで成り立つ2つの選択、これらが基本授業となります。それぞれの授業テーマや課題は、担当する先生方の方針によってさまざまで、授業テーマに関しては、年代を定めて歴史とともに音楽の理解を深めたり、作曲家にフォーカスし音楽の基礎を学んだりと、同じ授業でもガラリと変わることもあります。また、ハンガリー人学生と留学生とでクラス配分されている為、ハンガリー語と英語の2言語で対応してくれています。その方針から、ハンガリー人の学生にしか開催されない授業や、また留学生にしか履修できないのもあったりと、多種多様です。
—実技
これらの授業の中でも、非常に重要で、そして核でもあるのが「実技」です。今後の音楽活動への影響が大きい存在ですが、特に重要なのはどの教授に師事するかです。しかし、どういった方法で教授を決めるかは、人によってさまざまです。ある人は受験前に数回レッスンを受け、事前に約束を取り付けておいたり、ある人は教授の生徒受け入れ枠の定員オーバーにより、仕方なく音楽院の事務局から斡旋してもらったりとさまざまです。ここリスト音楽院の大学院(MA)課程では、二人の教授に師事し、週2回のレッスンが必須です。基本的に月に4回のレッスンが毎週ありますが、教授陣の中には国外の他大学でも教えている先生がいる為、その場合は、先生の都合により隔週となり、補足分のレッスンを入れての週に2回続けてのレッスンとなることもあります。私も師事している先生がドイツでも教えている為、こういったイレギュラーなパターンがあります。
【リスト音楽院の本館のレッスン室】
【大きなドアに、各3部屋ずつ配置されていて、設備もなかなか厳重】
【別館の地下階のレッスン室の中。室内楽のレッスンも行われる為、少し大きめです】
レッスン内容については色々ありますが、個人的には教え方のスタイルは大まかに2つのパターンがあると思います。一つは、実践型です。これは、実際に先生が弾き方や表現の仕方を、自身の演奏をもとに示すものです。比較的、色々な事が目に見えてわかりやすく、多くの人が好むパターンでしょう。もう一つは、論理型です。これは、先生が指摘内容を言葉で説明し、主に対話で理解を促そうというものです。どちらにもそれぞれの良さがありますが、私は後者の論理型が好きです。実際に、私の先生方の教え方もそうで、最初に曲全体を通して弾いた後は、ほぼ弾かずに説明のみで終わるなんてこともあります。けれど場面ごとにイメージしながら説明を受けるので、頭をフル回転させて理解しようとするためなのか、記憶しやすいです。そのことに気づいたのが、楽譜を見ずに曲を通すいわゆる暗譜に入ってからで、ここはこう注意されたな、ここはこう表現しなければと、その場面ごとに思い出しやすくなったのです。
さらに新たな発見として、コミュニケーション能力も身についてきました。これは、レッスンでの指摘について疑問を感じた時に、すぐに自分なりの言葉で聞き直します。でも、それでは先生に対して異議を唱えているみたいだと感じるかもしれないですが、これが求められていることなのだと思います。どんな考えを持っていて、どれだけ説明を理解できているのかは、会話を通して初めて明かされるからです。私が先生から言われたのが、「日本人は良い子なのか、何も考えていないのか、どっちか分からない。」でした。「どういう解釈で曲を理解しようとしているかは、生徒も人間、人によって違いがあって当然で、あなたにとっての一つの道しるべとして僕の指摘を捉えて欲しい。」これが先生からのアドバイスでした。なんとも単純なようで、けれど深い言葉にハッとさせられました。こういう新たな視点から起きた色々な変化を、レッスンを通して得た気がします。
本当に人によってさまざまな状況が起こり得ますが、一貫して言えるのは、レッスンでの先生とのコミュニケーションは非常に大事、ということです。お互いに知り合うことからが、対教授とのレッスンでは重要だと感じました。これら紹介した内容が、それぞれで取り組む曲が違うこと以外での、実技に対する私なりの見解になります。
【音楽院の別館の地上階、事務局もあり、また基本的に授業が行われる場所です。吹き抜けの窓があり、晴れている日は綺麗です】
【3階には練習室もあります】
—近況報告
遡ること12月下旬から、ものすごい勢いで寒くなり、最高気温が5、6度までしか上がらなく、時には雪が大粒で降る日々が続きました。なんといっても、肌の芯にまで突き刺さるような寒さは耐え難いです。これには、さすがのハンガリー人も凍えている様子でした。そうなると外へ出かけることも億劫になり、一人で閉じこもりがちです。特に、ハンガリー人はコミュニティを大事にする国民性なので、こんな時こそとばかりに、あえて皆んなで集まって出かけるそうです。その影響からか、今週の現代音楽の授業にて、課外での演奏会への出演の話が上がり、先生から詳細について一通り説明が終わった授業の最後に、「やっぱり一人でいるのは寂しいからね、こんな時こそ集まろう!」なんて優しい言葉が溢れていて、これがハンガリーの国民性かと心が温まりました。
こんな話を持ち出したのは、最近のある出来事がきっかけになります。今学期の初回のハンガリー語の授業はあまり生徒が来ず、たまたま日本人学生の私を含め3人のみの出席となりました。そのため授業を早々に切り上げて、残りの時間は話し合いの場となりました。ここで上がった議題は、「なぜ日本人は笑顔の仮面を被っているのか」でした。ハンガリーに限らずヨーロッパでは、話をする際に相手に笑顔を見せる一方、日本人は相手と目があえば笑顔を見せ良い印象を与えようとする、いわば反対の意味合いをもつ行動を取ると受け取られていることがわかりました。良かれと思ってしている行動がこちらでは疑念を持って受け取られ、真意を問い詰められる結果を招きました。私はどの人に対しても意見してしまうので、冷たい人だと印象付けられていましたが、ここハンガリーでは逆に人間味あるものと受け取られ、ある種の武器となりました。ただ、こうして私が過去の色々な背景を話すも、他の二人は一向に意見せず、それぞれの立場の意見を知りたい先生は我慢を超え、結果、説教を受けているような構図になってしまいました。互いの状況も理解出来てしまうからこそ国民性は大事で、自身のルーツの重要部分ですが、留学においては色々な場面に順応していく柔軟性も大事だと思います。他にも主体性を主張して存在を認識してもらうには、やはりコミュニケーションは欠かせません。日々、さまざまな修行ですね。
さて次回は、前回に引き続き音楽院の授業内容についてです。実技系でも室内楽ではどうなのか、先生との日頃のやり取りからレッスンまで、さらに室内楽を組んでいる相手の人との関係についてなど、幅広く紹介していこうと思います。